この恋がきみをなぞるまで。






夏休み前の面談で、何となくの進路が定まった。

定まったというよりは、ようやくつま先がどこへ向くか決まったような感覚で、これでいいのかなんてことも考える。


「やりたいことって言われると、難しいよ。私も別に、やりたいじゃなくて、得意なことだし」


空き教室は本当はエアコンをつけてはいけないのだけれど、室内には涼しい風が循環している。

わたしと涼花と、桐生くんしかいないのに、贅沢だなと思う。

暑いから、消す気はなかった。


「桐生はいつから考えてたの?」

「俺は、結構興味とか好きなものもあって。語学なんかは面白し、それが活かせたらいいなとも考えてたんだけど、面白いって感じるまで線に引っ張ってくれた人の存在があったりして。まあ、別に誰が、とかじゃないんだけど、きっかけ作る側にもなりたいと思って、それからかな」


パックジュースを勢いよく吸い込んで潰すと、桐生くんはゴミ箱に向かって投げた。

進路のことは、このふたりにもよく相談していた。

家から通える距離の大学で、以前日和さんと話した史学科を考えていると伝えたら涼花も桐生くんも応援すると言ってくれた。


「でも話聞いてたら、大学も楽しそうだなって思うんだよね」

「柚木も来たらいいのに。前学食食べに行ったけど、美味かったよ」


このまま希望が通れば、桐生くんとは同じ大学になる。

夏休みのオープンキャンパスにも一緒に行く予定を組んでいて、そこには涼花も着いてくると言っていた。


受験勉強の他にも何かできたら、どこかに行けたらいいよね、と話す涼花と桐生くんを横目に、窓の外を見遣る。

こんなときでさえ、ふと頭を過ぎる人がいる。

それを振り払うように首を振って、休み時間はまだあるけれど席を立った。


「芭流、どうしたの?」

「図書室に寄って教室に戻るから、先に行くね」


お弁当箱の包みと一緒に持ってきていた本を抱えて空き教室を出ると、廊下は蒸し返していて、開いた窓の外から中庭のセミの鳴き声が絶え間なく響いていた。