この恋がきみをなぞるまで。



確認すると、知らない番号からの着信が二度入っていて、それとは別に桐生くんからのメッセージの通知。


「え……」


『千里が番号知りたいって』

『福澄さん?』

『ごめん、勝手に教えた。気付いたら返事して』


この数時間の間に、そんな一方的なメッセージが送られていて、そしてかかってきていた電話。

教えた、と言っているから、間違いなく、城坂くんの番号だろう。

1時間前と30分前の着信履歴から、発信のマークを押すのが怖い。

だって、何の用事なのかもわからないし、これまで連絡先を知らなかったのに桐生くんを経由して聞くだなんておかしい。

そもそも、この数ヶ月、特にクラスが離れてからは姿を見かける日の方が珍しかった。


もし、何か大切なことだったら、何か緊急の用事だったらと思うと、いつまでも躊躇ってはいられない。

先生や、以前とトラブルに関係することかもしれないのだから。


深呼吸をしてから、まだ登録していない番号に発信する。

コール音も、その間隔も、何故か他に電話するときよりも長く感じた。

椅子に座ると、机の隅にはあの手紙が未開封のまま置いてある。


『はい』


一瞬、意思が逸れたタイミングで通話中に切り替わり、城坂くんの声が聞こえた。


『……芭流?』


久しぶりにきいた声と、城坂くん呼ぶ名前に、ぐっと息が詰まる。


「ど、うしたの……?⠀番号、桐生くんから聞いたんでしょう?」

『そう。ごめん、勝手に』

「それはいいんだけど、何か、あった?」


声が震える。

携帯を持つ手も震えて、スピーカーにはせずに少し音量を上げてから机に置いた。


『芭流、が……休んでるって裏葉にきいて。柚木とか相原と一緒にいるのに姿がなくて、教室通ったときも、いないし。それで』


電話の向こうで、城坂くんが言葉を詰めた。

わたしはもう、さっきの話だけで、受け止める気でいた容量を超えていて。

休んでいることなんて、知らないと思っていた。

興味がないだろうし、わたしの姿なんて、見えても見えなくてもきっと気にしないだろうって。


どうして、こんなにも。

突き放すくせに、いつかどこかで振り向いて、またわたしに手を伸ばすのだろう。