この恋がきみをなぞるまで。



「おい!⠀何してる!」


まだ正月であることが功を奏し、町内の集まりでもあったのか複数の大人がこの状況を見つけて駆けつけてくる。

公園の外から人が集まってくると、蜘蛛の子を散らすように去っていく。


「あいつらまた……大丈夫か、怪我は」

「平気。それより、芭流……」


僅かでも動かすと痛いけれど、押さえて固定していると劈くような鋭い感覚は襲ってこない。

目が合った城坂くんは浅い息を口でしていて、まるで不安定に瞳を揺らしていた。


「城坂くん、その、手」

「……気にすんな、擦りむいただけだから」

「でも、血が」


城坂くんはすぐに後ろ手に隠したけれど、手の甲から指にかけて裂傷になっている。

服にも砂の上にも、血が落ちている。


集会所に連れていかれて、すぐに傷の手当てをした。

わたしは小さな擦り傷がいくつかついた程度で、城坂くんの怪我の方がひどい有様だった。

血は止まったようだけれど、すぐに病院にと話がまとまって車を呼びに行く間に、城坂くんのそばに寄る。


「なんて顔してんだ」

「だって、わたしのせいで」

「芭流のせいじゃない」


首を横に振りながら言って、城坂くんはわたしの左腕を注視する。


「病院、行けよ。迎えも呼べ」

「もう、呼んだよ。でもこんなの、城坂くんと比べたら……」

「比べなくていい。芭流」


城坂くんの顔が泣きそうに歪んだ。

これまで、怒りや苛立ちで顔を顰めることはあっても、そんな風に、泣き出す瞬間のような顔を見せたことはなかったのに。


「ごめんな」


それが、何に対して言っていることなのかはわからない。

でも、縋るようで苦しそうな震える声をわたしたちの狭間に落としたくなくて。

聞きたくなかった言葉を、受け止めた。