この恋がきみをなぞるまで。



三が日を過ぎても来客が途切れない様子で、あまり長居するのも申し訳なくて早々に暇を告げる。

コートの袖を引っ張り、帰り道とは逆の方向へ向かう。

この先には、昔住んでいた団地があって、その近くには城坂くんの家がある。

城坂くんの連絡先は知らないし、いきなり家を訪ねるつもりもないけれど、少しだけ近くを散歩して帰ろうと思った。


城坂くんと歩いた書道教室までの道。

アイスを買ったコンビニ。

走り回った空き地。


空き地に関しては、いくつかの区画に分けて家が建っていた。

団地もすべての棟が綺麗になっている。


向こうには小学校があって、そこに通っていた。

突然引っ越すことになって、挨拶もしないままに転校したときのことを思い出すと、目の前に何が見えているわけでもないのにぎゅっと瞼を閉じたくなる。

同じ団地に住んでいた子どもたちを介して、家の事情は外に筒抜けだった。

居心地が悪くて、でも家にいるよりずっとよくて。

そう考えると、拠り所のひとつと呼べる場所だったのかもしれない。

それすら、城坂くんがいたからだと思えてしまう。


団地の近くの公園に最後に寄って帰ろうと入り口に回ったところで、遊具の周りに人が集まっていることに気付いた。

大柄な男性が何人も集まって、げらげらと下品な笑い声が寒空に響く。

以前、書道教室の近くを歩いていたのと同じ人たちだと思う。


近寄るのはやめて踵を返したとき、振り向きざまに誰かとぶつかった。

ガラガラと何かが落ちる音に次いで、うわっと低い声を聞こえた。


両腕いっぱいに自販機で買った飲み物を抱えていた人とぶつかって、弾みでほとんど地面に落ちてしまっていた。


「やべ……」

「ごめんなさい、平気?」


怪我がないことを確認しようと、急いで缶ジュースをかき集めるその人の前にしゃがむ。

すると、手に取ったばかりの缶を落として、じっとわたしの顔を見つめてきた。


「おまえ、なんか、どこかで……」


無遠慮に刺される視線から逃れようと、缶を拾うのはやめて立ち上がる。

急いでその場を離れようとすると、がっと腕をつかまれた。


「福澄だろ!⠀父ちゃん暴れて出ていったやつ!」

「なっ、ちが……」

「いやそうだって、顔変わってねえし」


どうしてわたしを知っているのかと恐怖を押し込めて顔を見るけれど、わたしはこの人が誰かわからない。

きっと同じ団地に住んでいて、わたしを知っていた人だ。