この恋がきみをなぞるまで。



「福澄さんは?」


ぽとん、と水音がして顔を上げたと同時に、そんな問いが落とされる。

桐生くんのつま先が蹴っ飛ばした木の実がまたひとつ、ぱちゃんと水面を叩いた。


「好きな人、いない?」


穏やかな笑みをたたえてそう言われたら、飲み込む前に息が止まりそうになる。

好きな人の話題なんて、避ければよかった。


「…………いない」

「なにその間」

「いません」

「敬語」


なんで、って笑いながら、桐生くんは笑いを収めるころには背伸びをして立ち上がった。


「今日はありがとう。やっぱり、今日の写真いくつか送ってくれないかな」

「もちろん。こちらこそありがとう、楽しかった」


公園の外で別れて、歩いて帰る桐生くんの背中を見送ったあと、バスの時間を確認する。

10分も待たずに来たバスに乗ると、冷えきった体がじんわりとぬくもっていく。

そうしてバスに揺られているうちに降りるバス停に着いて、コンビニで買い物をしてから家へと向かう。

その途中に、どこか足取りの重そうな子どもが歩いていた。

背格好で見間違えるわけない。

ここ数日、まともに話もできていないことを思い出しながら、早足でその背中に追いつく。


「昴流」

「……芭流姉」


声をかけると止まってくれたけれど、いつもならどこに行っていたのかとすぐに聞くのに、わたしの名前を呼んだきり黙り込む。

初めて会ったとき、昴流もわたしもとても緊張していて、簡単に馴染めなかったことを思い出す。

喧嘩なんてしたことがないとは言ったものの、あのときのわたしたちを見ていた日和さんはきっと大変だっただろうなと思う。

案外、あっけらかんと見守っていたのかもしれないけれど。