「芭流は将来、何になるんだろうね」
「わからない、まだ」
「時間はあるんだから、ゆっくり考えるといいよ」
鞄に仕舞ってある進路希望の用紙を思い出して顔を顰めると、日和さんはからかうようにかわいいかわいいと髪を撫で回す。
そして不意に、わたしの机の方を向いた。
「写真、残ってたんだね」
「うん。もうないと思ってた」
「芭流が持っていたってことでしょう?」
お父さんのいた家は安全な場所ではなかったから箱は四六時中持ち歩いていた。
恵美さんに預けていた荷物の中になかったのは、どこよりも安全な場所で守っていてもらうよりも、手元に置いておくことが大切だったからだろう。
当時の自分が何を考えて底に潜ませていたのかなんて見当もつかないし、きっとこれからも思い出すことはない。
守りたかったのか、縋りたかったのか、いつか思い出したいと願っていたのか、わからないけれど。
今ここにあるということは、きっと自分にとって必要なものだったと思うから。
ゴミ箱から拾って、机に置いている。
裏返した写真はまた箱に仕舞って、次はいつ、開けるかわからないけれど。
ここにあることはもう、忘れない気がした。



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