どれくらい時間が経ったのかわからなくて、微かな物音も全てが遠く感じる。
ひとつ解けたら、またひとつ別の何かが絡まっていく。
その複雑さに、心を整理する間もない。
時間は無情で、ここにいたいわたしを置いていってはくれない。
何度も体勢を変えたり、ベッドの上で丸まっては起き上がって背中を壁を預けてを繰り返していると、控えめにドアがノックされる。
返事をせずにいると、ドアが開いて日和さんが入ってきた。
「電気くらいつけなよ」
ぱちっと点された明かりが眩しくて、目元を覆う。
日和さんは持っていたマグカップをテーブルの上に置いて、ベッドの脇に座った。
「昴流と喧嘩した?」
「……ううん」
「でも昴流は芭流に謝らなきゃって言ってたよ」
日和さんが昴流からどんな風に聞いたのかはわからない。
少なくとも、昴流が謝る必要なんてないし、理由もない。
「芭流は習字続けたかった?」
「ううん」
「本当に?」
歪んでしまった半紙まで一枚一枚丁寧に集めて、日和さんがやさしく問う。
心の拠り所であったことは確かだ。
今もわたしの抱えたものを少しだけ担ってくれている、大切な思い出は、書道のそばのある。
お父さんのことがあって、怪我をして、環境が変わって。
続けられる余裕はなかったし、あの頃で途切れたことに後悔は微塵もない。
「芭流にね、好きなことがひとつあればいいなあってずっと思っていたの」
「ずっと?」
「そう、芭流が家に来てからからずっと」
日和さんはお父さんとほとんど関わりを持っていなくて、わたしも行き場をなくして初めて顔を合わせた人だった。
まだ昴流も小さかったのに、わたしに居場所をくれた。
それでも、居場所があって、あたたかい人がいて満たされても、欠けた部分はずっと埋まらなくて。
日和さんはそれをずっと気付いていたのだろう。
「前にも言ったよね。昴流に話せないことや暴かれたくないことはあって当然だと思う。あの子、遠慮も配慮も知らないし、真っ直ぐなのはいいことだけど、芭流にたくさん我慢させてごめんね」
「……そんな風に言わないで」
「昴流のこと?」
「我慢も、たくさんしてるのは昴流だから」
言葉や行動を、受け取った人がどう感じるかなんてそれぞれだ。
柔らかい表現も、その人の胸にはふかく突き刺さるかもしれない。
傷付けるのは、恐ろしいことだと思う。
心は見えないから、相手がふとわたしを思い出す瞬間があることすら、知らないまま、気付けないまま。
「まあ、あの子に我慢させてるのは芭流じゃなくて私なんだけどね」
困ったように笑って、ようやく顔を上げられたわたしの頬を、振り向いた日和さんが撫でる。
「7年も一緒にいて、やっと喧嘩するんだもの。何だか、すごく珍しいものを見た気になっちゃって」
「喧嘩なんてしない方がいいでしょ」
「するのも別におかしなことじゃないよ」
日和さんはわたしと昴流の先程の出来事を大して重く考えてはいないようで、時折頬をつまみながら、目を細める。



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