この恋がきみをなぞるまで。



小分けにして持ち帰っていた最後の荷物を受け取って、書道教室を後にする。

ずいぶんと日が短くなって、辺りには濃紺が敷き詰められていく。

昼から夜になる瞬間が間延びする時期よりも、瞬きの間に色を変えるこの季節の方が好きだ。

遠回りをしていると遅くなるので、日和さんに帰り着く時間を伝えて帰り道を歩いていると、車道を挟んで向こうでがやがやと騒がしい集団がすれ違う。

風貌からして、あまり積極的に関わろうと思わないタイプの人たち。

この辺りを歩いているということは、城坂くんと関わりが合った人もいるのかもしれない。

最後尾を歩く人が見えなくなったあとで、ちらりと横目で確認するけれど、それで何かわかるわけもなかった。


帰り着くと家には誰もいなくて、買い忘れたものがあるからスーパーに行ってくると数分前にメッセージが入っていた。

マンションのエントランスですれ違わなかったのは、ほんの数分の差だったのだろう。

この時間帯に家に一人になることなんて滅多に無い。

自室に入り、一度は荷物を置いて横になってみたけれど、起き上がりクローゼットを開ける。


揃った書道道具を仕舞うついでに、いくつか服も整理していく。

クローゼットの上棚は掃除も取り出すのも大変だから、あまり物を置かないようにしているのだけれど、ふと汚れた箱が気になって手を伸ばした。

爪で引っ掛けるように落とした小さな箱を受け止めて、ベッドに腰掛ける。


「これ、って……」


開ける前にはこの中身のことはわかっていた。

ずっと仕舞っていて、けれどいつも近くに置いていた。


ベタついたテープを破ると、中には四つ折りの半紙が幾重にも重なっている。

その一枚一枚を開いて、テーブルに並べた。

先生の添削が入った半紙は黄ばんでいたり、シミができていたり、決して保存状態がいいとは言えない。


文字も何だか幼くて、一枚毎に懐かしさが込み上げる。

お父さんと暮らしていたころの物はもうほとんどないけれど、これは、わたしがわたしの手で守ったものだ。


テーブルに乗り切らなかった分は床に並べていると、玄関から物音が聞こえた。

次いで、足音が廊下を駆け抜けたかと思うとわたしの部屋の前で止まる。


「芭流姉ー」

「はーい」

「帰ってきてた!⠀おかえり」


返事をするとドアを開けて昴流が入ってくる。

持っているコンビニの袋にはお菓子がいくつか入っていた。


「買ってもらった。食べよう」

「夜ご飯前だからだめだよ」

「ええ……けち」


くちびるを尖らせながら袋を放ってベッドに飛び乗ると、昴流は並べられた半紙を見て首を傾げた。


「これ全部芭流姉が書いたの?」

「そうだよ。小学生のときかな」


へえ、と1枚ずつじっくりと眺める昴流に何だか照れくさくなって、端から片付けていく。