しばらく泣いて、やっと少し気分が落ち着き、主任がお茶をすすめてくれた。

「ありがとうございます、もう大丈夫です」

「泣くなら普通、振られた本人の前じゃなかったですよね、ご迷惑をお掛けしました」

困り顔を崩せずにいた主任が、私の言葉に苦笑する。

「佐々木は意外とユニークだよな?それとも酒のせいか?」

「いや、今日は緊張してたから全然酔えませんでした、でも泣いたらお腹が空いたので、追加で注文してもいいですか?」

私がいつもの様子を取り戻して少し安心したのか、主任が優しく笑って頷いた。

私は多分、笑ってる主任が好きなんだなと、何となく思った。

「主任が好きな気持ちはすぐには消せませんけど、泣いてスッキリしたせいか、悔いだけは残さずに済みそうです」

「そうか、それなら良かったよ」

「明日からまた頑張って仕事します」

「そうだな、前にも言ったけど、佐々木はプロジェクトマネージャーを目指せるよ、だから頑張れ」

「はい、頑張ります」

「主任も新しい仕事、頑張って下さいね」

「ああ、頑張るよ」

その後、お腹いっぱい食べさせてもらい、主任と別れ、帰宅した。

正直、もっと落ち込んでしまうかと思っていたけど、いつも通りお風呂に入って、普通に眠った。

翌日からは、自分でも驚く程の集中力で仕事に励んだ。

迷いが消えて、主任が好きだと言う気持ちだけが残った状態は、思っていたより穏やかだと感じた。

目の前から主任がいなくなれば、この気持ちも徐々に消えていくのかもしれない。

そしていつかまた、別の誰かを好きになるのだろう。

今はそれが少し寂しく感じるけれど、心を乱される程ではない。

初めての恋に日和(ひよ)って逃げ腰だった私に、告白する勇気をくれた田中さんには、感謝しなくちゃだな。

今度また、ランチでもご馳走しよう。

主任から大量の仕事を引き継いでいる田中さんと違い、私は今まで通り、日常業務に追われる日々を過ごした。

そして、あっという間にひと月が経過し、呆気ない程アッサリと、主任は私達の前から消えてしまった。

「ああ、写真とか、撮らせてもらえば良かったな」

昼休憩中、早めにデスクに戻ってコーヒーを飲みながら、ふと呟いた。

「そんな麻友ちゃんに朗報です、俺のスマホには、送迎会で撮った主任お宝画像が入っております」

「マジですか?」

「見たい?」

「見たい!」

「しょーがないなー、送ってあげちゃう、ちょっと待ってねー」

ってこれ、田中さんの写真じゃん!

「ふふふー今の主任は俺なんだなー」

「田中さんて、どうして私の心の声と会話できるんですか?」

「だって麻友ちゃん、考えてる事が表情で丸わかりだから」

くっそー気を付けよう。

あ、また送られてきた。

「あ!ダブル主任!」

スマホの中で、主任と田中さんが肩を組んで笑ってる、とてもいい写真だった。

「田中さん!ありがとうございます!」