「とは言っても、どうするか決めるのは麻友ちゃんだ」

「無理強いはしないし、どんな選択をしても責めるつもりもない、だからよく考えて、納得のいく結論を出して欲しい」

「仕事は俺がフォローするから、残った時間で精一杯悩んだらいいよ」

そう言って、田中さんがいつもの優しい先輩の顔をする。

「この話はこれで終わり!麻友ちゃんがこの後寄り道しないで済むように、締めに何かガッツリした物でも頼もっか!」

田中さんの気遣いでまっすぐ家に帰った私は、言われた通り、主任の事を考えてみる事にした。

主任が会社を辞めなければ、私はどうしていただろう。

主任に私を好きになってもらう為にまずは一人前になろうと決めたけど、そもそも私が一人前になる事と主任が私を好きになる事は、全くイコールではない。

少しでも主任に釣り合う自分でありたいと願う、あくまで私の心構えの問題なのだ。

人が人を好きになる理由は多分それぞれ違って、私が主任を好きになった理由に至っては、自分でも説明ができない程曖昧な物だ。

だとしたら、主任が私を好きになる確証をいつまでも持てなくて、ズルズルと想いを拗らせ続けていた気がする。

結局私は、主任に振られるのが怖くて、それらしい理由をつけて、結論を先延ばしにしていたに過ぎないのだ。

大学時代、私は多くの人に告白された。

彼らが私の事を好きだと思ってくれた理由はよくわからないけど、どうして彼らは告白しようと思ったのだろうか。

普通に考えて、私を恋人にしたいから、だと思う。

告白の先にあるのは、想いが通じて恋人になるか振られるかのどっちかなのだから。

私は主任に私の事を好きになってもらいたいと思っていた。

それは主任に私の恋人になって欲しいと思っていたという事なんだと思う。

私が告白しないまま主任を諦めようとしていた理由は、振られるのが怖かったから。

諦めるのと、振られるのは、イコールなのだろうか。

どっちも恋人にはなれないのだから似ているけど、少し違う気がする。

それが、田中さんの言ってた『何もしなかった時の後悔』ってやつなのかもしれない。

そうか、告白しないで諦めてしまうと、恋人になれない辛さに、何もしなかった後悔がプラスされてしまうのか。

だから多くの人が振られる怖さを乗り越えて告白をするのだろう。

世の中には恋人達が溢れかえっていると言うのに、乗り越えたその先の勝率の低さは、どう考えても計算が合わない。

何故だ、、いつか田中さんか池田君に聞いてみよう。

とにかく今は、そんな事を考えている余裕はない。

私は、後悔しない為に、この恋に決着をつけると決めた。