「今にして思うと。社長が私を専務に付けたのは、たぶん後継者教育の一環だったんだんじゃないかな?私を通じて、自分の考え方ややり方を専務に伝えようとしたんだと思う。その役割をどこまで果たせたのかは、正直自分ではわからないけどね。」


「・・・。」


「そう言えば、さっき話したテキストにはこんなことも書かれてた。『秘書が業務上サポートする上司は、企業の経営者や役員など、責任のある立場の人です。上役のすぐ近くで働く秘書は、仕事をする中で、外部に漏らしてはいけない情報を知ることもあります。このような秘密を安易に口外してしまうようなことがあると、上司だけでなく、企業に損害を与えることになりかねません。秘書は、重要な情報を知ってしまった場合でも、自分の胸の内に秘めておくことができる人でないと務まらない仕事です。』って。私がさっきからやってること、明らかにこれに抵触しちゃってるね。」


「城之内さん・・・。」


「ということで、秘書失格の私はこれで去ります。あとは・・・あなたの仕事だよ、藤堂さん。副社長そして社長とこれから昇りつめて行かれるあの方を側にいてお支えする役割はあなたにこそ、ふさわしいと思うから。よろしくお願いします。」


そう言って、城之内は優しく微笑んだ。


「ありがとう、ございました。」


その笑顔に一礼した七瀬に1つ頷いて見せると、城之内はまた助手席に戻って行く。乗り込んで来た彼女の肩を抱き寄せ、何事かを囁き、そしてそっと口づけたあと、澤崎は七瀬に会釈すると、車をスタ-トさせた。


「ズルいよ、城之内さん・・・。」


(なんか羨ましい・・・。)


2人の仲睦ましい様子を見せつけられて、すっかり当てられた七瀬は走り去って行く車を見送りながら、思わず、ポツンと呟いていた。