「七瀬のお陰で、彼女と付き合い始めた時さ。」


「えっ?」


その自分の言葉に、複雑な表情を浮かべる七瀬には気付かず


「お前と佐倉さんが釣り合うわけない、身の程を知れって、随分周りに揶揄われた。それでも、順調に付き合って、愛を育てて来たつもりだったんだけどな。でも、結局はみんなに言われた通りだったのかもしれない。」


「大和・・・。」


「もう諦めるしかないのは、わかってるんだよ。でもさ、せめてもう1度声を聞きたいって、会ってちゃんと話をしたいっていう思いが振り切れないんだよ。未練がましいよな、俺・・・。」


そう言って、大和は自嘲気味に笑みを見せる。その彼の表情を見ながら


(もういいじゃん!)


七瀬は叫びたかった。


(辛いのはわかるけど、いつまでもそんな薄情な人になんか拘ってないで、大和はもう、前に進んで行くことを考えた方がいいよ。大和には私がいるじゃない、私たちは子供の頃からずっと一緒にいたじゃない、それを思い出して。私は、大和が望んでくれるなら、いつだって、一緒にいるよ。ねぇ、私じゃダメなの?大和!)


そう言って、大和の胸に飛び込みたかった。だけど・・・


(私が今、そう言ったとしても、大和は喜んではくれない。却って、戸惑わせるだけ。大和にとって、私はあくまで、幼い頃から一緒にいた、気心が知れた、きょうだいのような幼なじみ。だから悔しいけど、私は佐倉さんの代わりになんか絶対になれない・・・。)


そう思って、唇を噛み締めたあと、七瀬の口からこぼれたのは


「そんなことないよ。真剣に佐倉さんを愛してるんなら、大和がそう思うのは、むしろ当たり前のことだよ。」


という建前に満ち溢れた、自分の心情とは似ても似つかない言葉だった。


(七瀬の意気地なし・・・。)


「とにかくさ、諦めないでもう1度、佐倉さんにぶつかってみなよ。彼女の部屋のドアを蹴破ってでも、佐倉さんともう1度会って、話しなよ!」


「そうか、そうだよな・・・。」


七瀬の言葉に、大和の表情が少し明るくなる。


「俺にはまだやるべきことがあるんだよな。七瀬、ありがとう。またお前に借りが出来ちゃったな。」


そう言って笑う大和の顔から、思わず七瀬は視線を逸らした。


それから家に戻り、別れ間際


「七瀬。お前、仕事変わって、少し時間出来るんだろ?」


「たぶん・・・。」


「だったら、この前も言ったけど。これからはもっと帰って来いよ。俺、お前ともっと話がしたいよ。」


と笑顔で言って来た大和に、取り繕ったような笑みを返した七瀬は


(私、何してるんだろう。何がしたいんだろう・・・。)


自分で自分が悲しかった。