七瀬がオフィスに戻ると、心配そうな表情で待ち受けていた課長に、面談室に呼び込まれた。


「すまなかったなぁ。」


ソファに腰かけるなり、課長が頭を下げて来る。


「今回のことは全く私としても本意ではなかったんだが・・・今はこういうことに敏感な時代だから。」


「いえ。それに課長も係長も、私のことを庇って下さったそうで。ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。」


逆に頭を下げて来る七瀬に


「別に庇ったわけじゃない、まぁ多少言葉が厳しいこともあるかもしれんが、私も係長も本当に君がパワハラをしてるなんて感じたことがないんだ。そして今回の会社の調査でも、特に重いお咎めがあったわけでもない。これからも自信を持って、やってもらえばいい。」


慰めるように、励ますように課長は言う。


「わかりました、それでは業務に戻らせていただきます。」


そう言って立ち上がった七瀬だったが


(課長は私の成績が可愛いだけ。それにもし、私がパワハラをしていたと認定されれば、それを看過していたとして、上長として責任を問われる立場だからね・・・。)


内心では冷ややかに思っていた。そしてデスクに戻ると


小野(おの)さん。」


と部下の1人である小野さやかに声を掛けた。


「今日の午後の外出、同行できる?」


「は、はい。大丈夫ですが・・・。」


突然のご指名に、驚きながら小野は返事をする。


「じゃ、よろしくね。」


そう言って、一瞬笑顔を浮かべた七瀬だったが、すぐに表情を戻すとパソコンに向かう。その様子を、当然今日も自分がお伴をすると思い込んでいた田中が唖然としながら眺めていた。全く自分に視線も送って来ない七瀬に


(俺、なんか仕出かしちゃったのか・・・?)


不安になる田中の耳に


「チッ、あの人も案外使えねぇな・・・。」


舌打ちしながら、小声で呟く若林の声が耳に入って、ハッと彼の方を見る。苦虫を噛み潰したような表情の彼は、田中の視線に気付くと、不機嫌そうな表情のまま、オフィスを出て行った。