翌日、面会時間のスタ-トを待ちかねたように、七瀬は大和の病院に向かった。


病室に入ると、大和は相変わらず、昏々と眠り続けている。そんな彼の枕元に座った七瀬は、顔をじっと見つめると


「大和、昨日は来られなくてごめんね。でも、これからはあなたが目を覚ますまで、毎日必ず来るからね。」


と声を掛ける。


「大和、好きだよ。本当に誰よりも大好きなんだよ、あなたを思う気持ちは、誰にも負けない、佐倉さんにだって、絶対に負けてない、自信があるよ。覚えてるかな?小学生の頃、通学路に凄いおっきな犬を飼ってる家があってさ。私たちが通りかかるといつも吠えかけて来て・・・怖かったよね。それが、ある日、なんでかわからないけど、普段は鎖で繋がれてたその犬が放し飼いになっててさ、私たちの方を睨んで来たんだよ。怖くて、足がすくんで、動けなくなってると、大和がすっと私の前に立ったんだよ。その時の大和の背中は震えてた、だけど私を犬から守ろうとしてくれたんだよ。結局すぐにその家の人が気付いて、事なきを得たんだけど、でも私は本当に嬉しかったし、大和がカッコよく見えた。それだけじゃない、大和はいつも私の側にいて、私のこと気遣ってくれて、優しくしてくれて・・・そんなことが積み重さなって行くうちに、私はあなたのことが好きになっていったんだよ。なのに、あんなバカなことして、あなたを傷付けて、手放してしまって・・・ずっとずっと後悔してたんだよ。ごめんね。」


眠り続ける大和に切々と七瀬は語り掛ける。


「あなたは私が側にいることなんか望んでないのかもしれない、佐倉さんの所に行きたいのかもしれない。でも私は例え自分があなたの横にいられなくても、どうしても大和に生きて欲しいんだよ。だって佐倉さんの分まで生きて、幸せになるのが、あなたの使命のはずだよ。だから、お願いだから目を覚まして、大和・・・。」


溢れる涙も構わずに、そう言って、七瀬は大和の寝顔を見つめた。


だが、この日も七瀬の願いは届くことはなく、虚しく面会時間が終わりを迎えた。


「大和、ごめん。帰らなきゃ・・・でもまた明日必ず来るからね。」


ここで一瞬、間を置いた後


「大和、愛してるよ・・・。」


その思いを込めて、大和に唇を重ねた。すると


「大丈夫だよ。」


という声が聞こえて、ハッと七瀬は唇を離した。


「大和くんには、あなたにはまだやらなきゃならない大切なことがあるでしょって言って、そちらに帰ってもらったから。だから、大和くんのこと、よろしくね。」


「佐倉さん・・・。」


それは間違いなく、弥生の声だった、いやそう聞こえた。驚いて、周りを見回す七瀬。だが、そこには、弥生はもちろん、誰の姿も見えなかった。