(七瀬・・・。)


彼女のことを思いながら、フラフラと歩き出した大和の耳に


「危ない!」


という声が響く。だがそれが自分に向けられたものだとは思わなかった大和の身体に、次の瞬間、大きな衝撃が襲って来た。


「柊木!」


何が起こったのか、全くわからないまま、自分の身体が宙に舞っているのを自覚した大和は、次に襲って来た痛みと衝撃と共に意識を失って行った・・・。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「じゃぁ大和は、誤って車道に・・・。」


「そうです、相当飲んでましたからね。」


「いつもはあんなに飲む奴じゃないんですけど、やっぱりいろいろあったから・・・我々がちゃんと付いてやってなかったばかりに・・・申し訳ありませんでした。」


そう言って深々と頭を下げる同僚たちに


「仕方ありません、本人の不注意ですから・・・。とにかく今は無事に手術が終わるのを祈るだけです。」


七瀬はそう答えるしかなかった。それから間もなく、手術が終わり、大和が病室に移されたのと、ほぼ同時に彼の両親が姿を見せた。


「大和!」


焦燥を露に病室に飛び込んで来た大和の母礼子が、息子の名を呼ぶ。


「おばさん、先ほど手術が終わったところです。」


「それで大和は・・・。」


「手術は成功したそうです。ただ・・・正直予断は許さないそうです。」


七瀬が沈痛な表情で答えると、それを聞いた礼子は、大和の横の椅子に座り込むと


「大和、わかる?お母さんだよ。あんた、なんでこんなことに・・・。」


と呼び掛け、涙ぐむ。


「母さん、大和は大丈夫だ。だから、落ち着くんだ。」


そんな妻に言い聞かせるように告げた大和の父親は


「七瀬ちゃん、すまなかったね。みなさんもご迷惑をお掛け致しました。取り敢えず、私どもが参りましたので、みなさんはどうかお引き取り下さい。本当に夜遅くまで、申し訳ございませんでした。」


と言って、頭を深々を下げる。その言葉に、病室に詰めていた面々も一礼を返し、大和にもそっと黙礼してから、病室を出た。


「副社長、貴島さん。すみませんでした、すっかり巻き込んでしまって・・・。」


本来なら無関係なはずなのに、帰るに帰れないまま、ここまで残っていた2人に、七瀬が頭を下げる。