(もう、なんなのよ。こんな時に・・・)


無視していた七瀬だったが、切っても切っても掛かって来るしつこさに、ついに堪りかねて


「ちょっとなんなの?今、ちょっと取り込み中なの。後にしてよ!」


と一言叫ぶように告げて、切ろうとすると


『七瀬、今、どこなのよ!』


めげずに叫び返して来る母律子の声が耳に飛び込んで来る。


「そんなの今、どうでもいいでしょ?」


『よくないわよ!実は・・・。』


懸命に言い募って来る律子の言葉に、七瀬が顔色を変えるまで、時間は掛からなかった。


「本当なの・・・?わかった、とにかくすぐに行ってみる。」


顔色を青ざめさせて、通話を切った七瀬を、何事が起こったんだとばかりに圭吾と愛奈が見ている。


「すみません、母からで・・・。幼なじみが事故に遭って、病院に運ばれたんだそうです。」


「えっ?」


唖然とするふたりに


「今、彼のご両親も慌てて向かっているんですけど、ウチらの実家からは、少し時間が掛かるんで・・・。今は彼が運ばれた病院に、私が一番近いところにいるみたいなんです・・・こんな時に申し訳ありませんが、これから病院に向かいます。失礼します。」


と踵を返そうとする七瀬を


「待て。」


と圭吾が呼び止めた。


「その病院なら車の方が早い、一緒に行くよ。」


「でも・・・。」


「緊急事態なんだ、遠慮してる場合じゃないだろ。」


「圭吾さん・・・。」


「先輩の言う通りだよ、とにかく急ごう。」


愛奈も声を励ますから


「すみません、ではお言葉に甘えさせていただきます。」


七瀬は頭を下げる。


こうして愛奈を含めた3人は、車上の人となった。


(なんで、こんなことになっちゃうの・・・?大和、とにかく無事でいて・・・。)


真剣な表情で病院に急ぐ圭吾の横で、今の七瀬は、そう祈るしかなかった。