「まさか俺と弥生の結びの神だと思ってた七瀬が、俺に対してそんな思いを抱いてるなんて、正直思ってもみなかったよ。」


「あれは・・・。」


「うん、弥生から聞いたよ、あの時の七瀬の本当の気持ち。」


「ごめんなさい。」


小さな声でそう言って、俯く七瀬に


「謝るなよ。俺、別に怒ってないから。」


大和は明るく言う。


「俺さ、ずっと七瀬に申し訳ないと思ってたんだよ。」


「えっ?」


「なかなか学校に馴染めなくて、すっかり周りから陰キャ扱いされてた俺に、七瀬はずっと寄り添ってくれてた。幼なじみだから、見捨てられなくて、七瀬の学力なら、もっと上の学校に行けたはずなのに、わざわざ高校も同じところを選んでくれて。高校に入ってから、何度も告白されてるのに、みんな断ってるのも、きっと俺をひとりにしちゃ可哀想だと思ってるからだって。」


「大和・・・。」


「そんな七瀬があの日、急にあんなことを言い出した。その時、俺は思ったんだ、ああ、とうとう七瀬は俺のお守りが嫌になったんだって。」


「そんな・・・。」


「無理もないと思った。七瀬だって、せっかくの高校生活をいろいろエンジョイしたくなって当然だって。だから・・・まさか誰かが俺の彼女に立候補してくれるなんて、夢にも思わなかったから、これでこれからはひとりになっちゃうけど、七瀬を俺の横から解放してやれるなら、それでいいって思ったんだよ。」


淡々と語り続ける大和の言葉を、七瀬は半ば茫然と聞いている。


(あの頃、私は大和と一緒にいることをクラスメイトたちに揶揄われると、照れ隠しに「私まで大和を見捨てたら、あの子、いよいよボッチになっちゃって、可哀想じゃん。」なんて言ってた。それを大和は私の本音だと受け取ってたんだ・・・。)


それはあまりに切ない現実だった。


「それがまさかの弥生の立候補で、望外の素敵な彼女が出来た。俺は心から七瀬に感謝すると共に、これで七瀬が安心して俺から離れられるとホッとしたんだよ。バカ過ぎるよな、俺。」


「大和・・・。」


「大げさじゃなく、生まれてからずっと隣にいたのに、七瀬の気持ちに全く気が付かなかった自分の鈍感さが恥ずかしい。本当にごめんな。」


そう言って、頭を下げる大和を、七瀬は驚いたように見る。