七瀬は通夜に参列した。祭壇に安置された弥生の表情は穏やかで、微笑んでいるようにすら見えた。そして飾られた遺影の彼女は本当に幸せそうな笑顔だった。1年前、大和と行った旅行先でのワンショット、選んだのは彼女自身だったと言う。それを見た七瀬の胸の内には、さまざまが思いがよぎり、胸が潰れる思いがしたが、懸命にその感情を押し殺し


(佐倉さん、安らかに。さようなら・・・。)


手を合わせ、そう心の中で別れを告げた。遺族席には、目を真っ赤にした大和が座っていたが、掛ける言葉も見つからずに、七瀬はそのまま斎場を出た。


「藤堂さん。」


すると彼女を追い掛けて来る声が、福地だった。お悔やみの言葉を述べる七瀬に


「弥生は言ってました。『私が大和くんと藤堂さんの間に無理矢理割り込んだから、遠回りさせちゃったけど、私は本当に大和くんのことが好きだったから、許して欲しい。でもこれからふたりは、あるべき姿に戻るのだから、私はそれをずっと空から見守っていくよ。』って。これは弥生の嘘偽りのない気持ちのはずです。どうか、それを忘れないでやって下さい。」


そう言って、自分を見つめる福地に答えることなく、七瀬は黙って一礼して歩き出した。


(ふたりのあるべき姿って・・・。佐倉さん、あなた、本気でそう思ってたの・・・?)


そんなことを思いながら、駅に向かって歩く七瀬の目に鮮やかなクリスマスツリーが映る。


(もうすぐクリスマスだよ、佐倉さん。なのに、なんであなたはいなくなっちゃったの・・・?)


あまりにも短すぎた26歳の生涯だった。その現実が、改めて胸に迫って来て、七瀬の目には涙が滲んでいた。