そんなところへ看護師が検温にやって来て、七瀬たちはいったん病室を出た。


「大和。」


七瀬は大和が呼び掛ける。


「今日はこのまま佐倉さんと一緒にいてあげて。ううん、これからまた、ずっと。いい?」


そう言って、自分を見つめる七瀬に


「わかった。」


大和は1つ頷いだ。そんな彼に微笑みながら頷き返した七瀬に


「藤堂さん、すみません。」


福地が頭を下げる。


「いえ、あなたが私に頭を下げる必要なんかありません。むしろ、真実を教えていただいて、感謝しています。」


「藤堂さん・・・。」


「私が、こんなことをあなたに言うのは変ですけど、佐倉さんのこと、よろしくお願いします。」


そう言って、歩き出そうとする七瀬に


「藤堂さん、送って行きますよ。」


慌てたように、福地が声を掛けるが


「いえ、大丈夫です。ここからなら自宅はそんなに遠くありませんから。」


そう答えて、七瀬は彼らに背を向けた。


それから、大和は足繁く、弥生のもとを訪れた。


「大和くん、お仕事も忙しい時期だし、なによりこれじゃ藤堂さんに申し訳ないよ。だからもう・・・。」


と言う弥生に


「何を言ってるんだ、俺は弥生の婚約者なんだよ。だから俺は、何があっても君の側を離れない。ずっと君と一緒にいる。もし今度、俺を突き放そうとしたら、絶対に許さないから。」


「大和、くん・・・。」


「だから・・・早く元気になるんだ。いいね。」


大和は優しく微笑む。そんな彼の顔を、弥生は潤んだ瞳で見つめていたが


「ありがとう・・・大和くん。」


そう答えて、大きく頷いた。


大和との時間が帰って来て、弥生の病状は明らかに好転し始めた。ひょっとしたら・・・周囲は期待を抱いたが、しかしそれは一時的なものに過ぎなかった。現実は残酷であり、奇跡が起こることはなかった。


「大和くん、今まで本当にありがとう。私は・・・あなたに出会えて、あなたに愛されてとっても幸せでした。だから・・・あなたは・・・これからは、藤堂さんとお幸せに・・・。」


末期に立ち会った大和に、苦しい息の中、精一杯の言葉を遺して、弥生が息を引き取ったのは、七瀬が彼女の病室を訪ねてから、ひと月ほど後のことだった。


「弥生~!」


彼女が目を閉じた瞬間、その手をずっと握りしめていた大和はそう絶叫し、周囲の人々も泣き崩れ、彼女の亡骸に縋りついた