「なぜそこまで私のことを・・・氷室さんには私なんかより、もっとふさわしい方がいらっしゃると思います。」


「どういうことだ?」


「愛菜さんがあなたのことを想ってらっしゃることに、まさか気付いてらっしゃらないわけじゃないですよね?」


問い掛ける七瀬の言葉に


「俺はお前の幼なじみほど鈍感じゃない。」


圭吾はあっさり答える。


「貴島からモーションを掛けられたことがないわけじゃないし。ただ彼女はダメだ。」


「どうしてですか?」


「彼女には俺と同じように、いやひょっとしたら、俺以上に背負わなくてならないものがある。それが経営者の娘に生まれた彼女の宿命だ。同じ宿命を背負った俺では、彼女を支えてやることは出来ないし、逆に彼女も俺が求めるパートナ-とバディ足り得ない。実は貴島が妹を秘書にしたのは、それに気付いた彼女がその宿命を妹に背負わせて、俺のもとに来ることを考えているからかもしれないと俺は思っている。」


「氷室さん・・・。」


圭吾の言葉に、七瀬は驚きを隠せない表情になる。


「だが、残念ながら、奈穂ちゃんじゃ無理だ。あの子じゃとても、貴島の代わりに、ビーエイトを背負うことなど出来ない。」


「・・・。」


「ビーエイトさんは、特に近年、親しくして頂いている大切なお取引先だ。そのお取引先を自分の感情や色恋沙汰で危うくすることなど、とても許されることじゃない。」


「ですけど・・・。」


「それにだ。」


言葉を挟もうとする七瀬を抑えるように、圭吾は言う。


「七瀬は肝心なことがわかってない。」


「肝心な、こと・・・?」


「貴島は確かに美人だし、性格もいい。それに優秀なビジネスマンだと思う。だがなビジネス上のバディは優秀で気が合えば、はっきり言って、誰でもいい。性別も問わない。だがな、人生のパートナ-はそうはいかない。」


「えっ?」


息を呑む七瀬の顎を掴んで、クイと上を向かせた圭吾は


「七瀬、俺にだって好みもあれば感情もある。誰でもいいわけじゃないんだよ。そんなの、当然だろ。」


「氷室さん・・・。」


「俺は諦めが悪いんだ。まだまだ勝負はこれからだ。」


そう言って、ニヤリと笑った圭吾の視線を、七瀬は逸らすことが出来なかった。