古竜といえば騎士団を引き連れて討伐するくらい危険な魔物だ。幻獣のバハムートと違って好戦的で、視界に入る動くものは餌とみなすから危険極まりない。
 そんな魔物を単独で倒すとは、かなりの腕前だろう。

「ジルベルト様はお強いのですね」
「ええ、ジルはもともと冒険者になるために腕を磨いていたのですが、わたくしがスカウトしたのです。いつだって、あの逞しい背中に守られてきたのですわ」
「へえ、冒険者……そんな生き方もあるのですね」

 私は治癒士としてやってきたけど、冒険者も自由がありそうだ。生活の保障はないけれど、いろいろな国を旅するのは楽しいだろうなと、想像を膨らませた。

「ラティは僕の婚約者だし、いずれ僕の妻になるんだよ」
「あはは、わかってます……ちょっと想像してみただけです」
「ふーん、ならいいけれど」

 フィル様がすかさず現実に引き戻してくれる。せめて妄想くらいゆっくりとさせてほしい。

「ふふっ、相変わらずですのね。それでは、そろそろお暇しますわ」

 立ち上がったイライザ様は、それは美しい微笑みを浮かべて執務室から去っていった。