いつもの執務室での昼下がり、フィル様は最近の社交界での噂話を仕入れてやけにご機嫌だった。

「ふふ、これで僕と君はどこからどう見ても相思相愛の婚約者だね?」
「あああ! わかっていたけど、納得いかない!!」
「あはは、そろそろ諦めたら?」
「嫌です! 諦めません!!」

 まだ判定試験は終わっていないのだ、希望は捨てない。

「僕はこのまま結婚しても全然構わないんだけど」
「私にはフィル様のような腹黒の相手など務まりません! 婚約解消を熱く希望します!!」
「あはは、相変わらず面白いね。……ラティはこのまま変わらないで」

 フィル様が急に真面目な顔になり、おかしなお願いをしてくる。でも、今の私はそれどころではない。まだアリステル公爵にジルベルト様を認めてもらえてないのだ。

「ああ、僕に惚れて態度が変わるのは大歓迎だから」
「誰が腹黒王太子に惚れるか——!!!!」
「ふふっ……いつか、ね」

 フィル様の呟きは、絶望に染まった私の耳には届かなかった。