テーブルに座っていたご婦人たちは、ひと言も話さずこちらを凝視している。そこへ先ほど挨拶を終えたばかりのイライザ様がやってきた。これも計画通りだ。

「ちょっと! ラティシア様! 席なら他にも空いているでしょう!? 私の采配が悪いように見せつけて、どれだけ性悪なの!?」
「……イライザ嬢。僕がこの席がよかったんだよ。それにこんなことで恥ずかしがるラティはかわいいだろう?」
「フィルレス殿下、この際ですから言わせていただきますが、ラティシア様では家格に問題がありますわ! 一介の治癒士の分際で——」

 ここでフィル様のまとう空気が変わった。
 それはこの会場にいる者なら、誰もが畏怖するほどの魔力を込められた覇気だった。

「イライザ、もういい。僕の婚約者を侮辱するのは、例え君でも許さない」
「……っ! 本気、ですのね……?」
「当然。やりすぎはよくないね」

 一瞬だけフィル様とイライザ様の視線がからむ。
 イライザ様は短く舌打ちして、踵を返し屋敷に消えていった。

 その後のお茶会は、フィル様と私を観察する会になった。ここぞとばかりに、フィル様にメロメロに甘やかされて私は本当に天国が見えた気がした。
 参加したご婦人たちの興奮は冷めることなく、社交界にはフィル様が私を溺愛していると光の速さで広まった。