「まあ! フィルレス殿下だわ!」
「相変わらず麗しいわね……あら、あの方が……」
「どうしてあんな一介の治癒士が婚約者なのかしら」
「フィルレス様、お可哀想に……きっとなにか弱みを握られているのだわ」
「そうよね、でなければ他に相応しいご令嬢がいますものね」

 耳に入るのは私が婚約者になったことへの罵倒だった。
 悲しくなるどころか、むしろもっとフィル様に聞かせてほしい。なによりも、私が一番そう思っている。

「ラティ、まずは主催者へ挨拶しよう」
「はい、かしこまりました」
「ここは段差があるから気を付けて」
「ありがとうございます、フィル様」

 そう言って「うふふ」と幸せそうに私たちは微笑む。普段は隙のない笑みを浮かべて決して崩れないフィル様が、甘くとろけるように微笑んだ。その様子を見ていた周りの貴族たちが、ざわりとどよめく。

「イライザ様、本日はお招きいただきありがとうございます」
「元気だったかな? イライザ嬢。すまないけれど、今日は私も参加させてもらうことにしたよ」
「えっ……フィルレス殿下……!? わたくしが招待状を送ったのは、ラティシア様だけですわ!」
「ああ、そうらしいね。愛しい婚約者のそばにいたくて僕が勝手についてきたんだ。気にしないでくれ」
「なっ……!!」
「では、今日は楽しませてもらうよ」

 イライザ様は悔しそうに顔を赤らめて、ブルブルと震えている。悪女を自作自演してきたおかげか、演技力が半端ない。