なんと悪女の噂は自作自演だった。しかもちゃんと相手を選んでいて、本当に辛い思いをしているご令嬢たちを救っている。その正義感の強さや家柄からも、私はイライザ様こそ王太子妃に相応しいと思うのだけど。

「わたくし、もう十年もジルを想っていますの。彼以外を夫にするなんて考えられませんわ」

 その言葉に、ジクリと心の傷が(うず)く。
 私が知らない、私には与えられなかった、一途な愛の話だ。

「ラティシア様。ジルはこんなわたくしでも好きだと言ってくれています。ジルもお父様に認めてもらおうと努力していますが、もう他に手がないのです。わたくしはジルが夫でなければ、生きている意味がないほど彼を愛しているのです」

 こんなにも強く相手を想うことがあるのかと思った。
 これほどの一途な愛は、とても眩しくて、羨ましくて、わざと失敗するなんてできないと思った。

「承知しました。この課題、なんとかこなしてみせます!」
「ラティシア様! ありがとうございます……!!」

 炎のような紅眼が潤んで、キラキラと輝いて見えた。