顔も耳も真っ赤に染めながら、好きな殿方を暴露するイライザ様は純情な乙女のようだ。本当にこの方が噂の悪女なのだろうか?

「それは、アリステル公爵家からの正式な申し入れなら、お相手様はお断りできないのでは?」
「ええ、それはそうなのですが、問題はお父様ですの」
「アリステル公爵様ですか?」
「父はわたくしを王太子妃にしたくて、何年も前から裏で画策していますの。今回のエルビーナ皇女の件もおそらく関わりがあるはずです」
「えっ!」

 フィル様に視線を向けると、知っていると言わんばかりに頷いた。この腹黒王子のことだ、きっとエルビーナ皇女よりイライザ様の方がいいと思ってなにもしなかったに違いない。
 私と出会う前のことだけど……でも目の前のイライザ様を王太子妃に考えていたとなると、それはそれでなんだかモヤモヤとする。

「ですから、お父様にはわたくしが王太子妃になることを完全に諦めてもらい、ジルこそが夫に相応しいと認めさせたいのですわ」
「なるほど……簡単にはいかなそうですね」
「ええ、わたくしもできることはしておりますのよ。例えば、性悪女のふりをして暴力を振るわれて婚約解消したいご令嬢の相手を(そそのか)して破談にしたり、婚約者がいる男性にいい寄る恥知らずなご令嬢にはとてもきつい言葉を投げたり……そうやって、王太子妃に相応しくないとアピールしてきましたの」