いつもは見せないフィル様の熱のこもった視線を、素直に受け止められたらどんなに楽だろうと思う。でも、心から誰かを信じるのは怖い。
 こんなにも臆病者になってしまった私は、いつか誰かを信じられる日が来るのだろうか?

「ラティ」
「は——んぐっ」

 呼ばれたので顔を上げると、フィル様がひと粒のマスカットを私の口へ押し込んできた。思わず噛みしめると、ジュワッと瑞々しくて爽やかな甘さの果汁が口の中にあふれる。あまりのおいしさに、勝手に口が動いてあっという間に飲み込んでしまった。

「ふふっ、これは僕の好物なんだ。ベイリーマスカットといって、皮ごと食べられるんだ」
「これ、すごく美味しいです」
「でしょ。まだ食べる?」
「はい、いただきます!」

 さすが王族の食事だけあって、食材は新鮮で丁寧に処理されているうえ、料理人の腕が当然のように素晴らしく、なにを食べても美味しかった。
 そしてフィル様はもうひと粒とって、私の口元へと運んでくる。

「はい、あ〜ん」
「フィル様。私、自分で食べられます」
「いや、これも僕の癒しの時間になるから。はい、素直に口を開けて食べてね」
「待ってください、これはいくらなんでも恥ずかしすぎます……!」
「これも治療の一環だから、業務命令だよ?」