翌朝、私が目覚めた時には、すでに寝室にフィル様の気配はなかった。
 いつもはフィル様より早く目が覚めるのに、起きるのが遅くなってしまった。昨夜はなかなか寝付けなかったせいだ。

 フィル様に侍女をつけると言われたけれど、専属治癒士には必要ないと断ったのが裏目に出てしまった。急いで身支度を整えて、朝食が用意されている部屋へ向かう。
 部屋に入ると、王族仕様の長いテーブルの端の席で、優雅にお茶を飲むフィル様が目に入った。

「フィル様、おはようございます」
「おはよう。ラティはしっかり眠れた?」
「はい、問題ありません」

 フィル様はお茶に口を付けて、私が席に着くのを待って食事を始める。慌てていてしっかりと時間を見ていなかったけれど、朝食の時間には遅れずに済んだようで胸を撫で下ろした。いつものようにフィル様の斜め前の、実質的に隣の椅子にかける。
 こうやってフィル様と同じ席で食事をとり、そのまま一緒に王太子の執務室へ出勤するのだ。これも業務命令だった。

「そう、よかった。今日はアリステル公爵家から審判(ジャッジ)がやってくるから、頑張って」
「承知しました」

 フィル様はいつもとまったく変わらない様子だ。穏やかな微笑みを浮かべて、私と視線が合うと途端に甘く情熱的に見つめてくる。