「ねえ、聞いてよバハムート! 今日フィル様に膝枕させられたのよ!?」
《……仲がよいのだな》
「違うの! いつものようにソファの端に座ったら、何食わぬ顔でいきなり頭を乗せてきたのよ! しかも『僕の心はこれで癒されるから、治療の一環だよ』って言うから反論もできなかったのよ!」
《やはり仲がよいのではないか?》
「仲良くしたくないのに……そもそも男なんて信じられないし、貴族の役目だとしても王太子妃なんて無理だわ!」

 私は連日バハムートに話を聞いてもらっている。
 フィル様が入浴などで離れる時間があるので、そのタイミングで私室へ戻り私も入浴などを済ませることになっている。いつも手早く済ませて、就寝までのわずかな時間を使って息抜きをしていた。

 マクシス様のことがあったから、私は男性不信になっていた。人として尊敬したり仲良くすることはあっても、異性として信じることはない。そもそも仕事に夢中で恋愛感情なんてとっくに枯れ果てている。
 だから正直なところ、フィル様に異性としての愛情を示されたとしても、いまいち心に響いてこなかった。

《だが、ラティシアがあの男から逃げるのは難しそうだな》
「そうなのよね……あ、待って。バハムートに乗ってそのまま国境を超えてしまえば行けるんじゃない!?」