専属治癒士になるにあたって契約書を交わすと言われ、一番最初に出されたのがこの書類だった。
 あの時は私のような立場の人間でも、王族は約束を守ると約束するためのものだと思っていた。我が国の王太子殿下は、どこまでも誠実なお人柄なのだと感動すらしていたというのに……!

「だって、これ魔法宣誓書じゃないですか——!!」
「うん、だから昨日から言ってるように、もうあきらめて?」

 私はガックリと項垂れた。お互いに魔力を込めてサインすれば魔法契約したことになり、絶対的な効力を持つ。
 宣誓を取り消すには、お互いが納得したうえでもう一度魔力を込めてサインしなければならない。

「あの、条件を修正してほしいので、もう一度サインしてください」
「僕が一度交わした約束を、簡単に破るような男に見える?」

 腹黒王太子が用意周到すぎて、もうどうにもならない。今ではその顔に浮かべている笑顔さえ胡散臭く感じてしまう。なによりもこの宣誓書は、絶対に後で文句言わせないためのものだ。

「フィルレス殿下、あまりラティシア様を追い詰めない方がよろしいのではないですか?」

 ここでずっと沈黙していたアイザック様が、初めて私のフォローをしてくれた。
 フィル様の容赦ない策略に打ちひしがれていた私は、アイザック様が救世主に見える。やっとできた味方にもっと言ってと必死に視線を送った。