王都にあるタウンハウスで、カールセン伯爵夫人ビオレッタとしてわたしは暮らしていた。

 女主人として腕を振るって、義姉から奪い取ったマクシス様に愛されて幸せな生活を送る——はずだった。

「ビオレッタ様、またメイドがひとり辞めました」
「そう、まったく最近の子は根性がないわね。ちょっと怒ったらすぐ辞めちゃうんだから」

 庭の東屋までやってきた執事長のトレバーが、眉間にシワを寄せて報告してくる。またいつものように、わたしにああしろこうしろと言いたいのだろう。

 天気もよくて、いい気分でお茶を楽しんでいたのに台無しだ。だから間を空けず言葉を続けた。

「これからはメイドが辞めるなんて人事の報告は不要よ。トレバーの方でうまくやってちょうだい」
「ですが、もうずっと募集をかけていても人が来ない状態です。これ以上メイドが辞めてしまうと屋敷の管理にも支障をきたします。つきましては、ビオレッタ様もメイドに対して感情的になるようなことは控えて——」

 やっぱりわたしに文句を言ってきた。これだからトレバーと会話するのが嫌になるのだ。わたしはこのカールセン伯爵家の女主人だというのに、堂々と意見を言う態度が本当に癇に障る。