「……実は僕、あの皇女にまったく好意を抱けなかったんだ」

 ぽろりとこぼした本音。
 こんなことを言えば、いつも僕の周りにいる人間たちは王太子らしくないと注意したり、聞かなかったことにされてる。
 ところが、彼女の返答は僕の予想を裏切った。

「え!? そうだったんですか!? よく隠していましたね。全然わかりませんでした」
「うん、婚約破棄してくれてむしろホッとしている」

 受け入れてもらえたのか……?

 ラティシアは否定せずに受け入れてくれた。
 そして本当の僕を見てくれたと思った。

 ずっとありのままの自分を見てほしかった。
 心からの言葉を聞いてほしかった。
 ただ、僕を受け止めてほしかった。

「ふふふっ、そうですね。フィルレス殿下にはもっと心優しくて、真面目で、こんな風に愚痴を聞いてくれるお妃様がお似合いです」

 その時、ラティシアから光があふれて、僕の世界に色を付けていった。
 今まで僕は灰色の世界で生きてきたのだと、初めて気が付いた。
 世界はこんなにも色とりどりで、輝きに満ちていたのだと。

 ひときわ眩しく光を放つのは、目の前で揺れるプラチナブロンドの髪と、神秘的な紫の瞳。
 ぱっちりとした瞳は優しげに細められて、柔らかそうな薄桃色の唇はゆるい弧を描いていた。

「そうだね、本当にそう思うよ」

 僕は言葉通り、心優しくて、真面目で、こんな風に愚痴を聞いてくれるラティシアを手に入れると心に決める。
 僕の黒い本性が目の前の宝に狙いをつけたのを、浮き立つ心で感じていた。