「君が治癒魔法をかけてくれたのか?」
「はい、僭越ながら私が治癒魔法で毒を除去いたしました。変化の魔法を使われてましたのでフィルレス殿下であると気付かず、御身に触れてしまい誠に申し訳ございません」

 話を聞けばこのラティシア・カールセンが優秀なのはすぐにわかった。状況判断も的確だし、あのカールセン伯爵家の嫡子というではないか。カールセン家はその血筋を絶やさないよう、結婚は早かったはずだ。

 なにか事情がありそうだと感じながらも、生前のラティシアの父君に世話になったと話題を変えた。しんみりした空気を変えようと、ラティシアが言葉を続ける。

「フィルレス殿下は、いつもよく努力されています。どんなに辛いことも、どんなに悔しいことも、その胸のうちに抱えて弱さを見せません。ですが……つらい時は弱音を吐いたっていいのですよ」
「弱音など、僕には……」
「私、実は義妹に婚約者と実家を奪われて追い出されたんです。なかなかの経験をしてきたので、きっとフィルレス殿下の愚痴くらい聞けると思います。これでもフィルレス殿下より年上なので、姉に話すつもりでなんでも言ってみてください」

 そういえばラティシアの父君が、僕より三歳上の可憐で心根の優しい娘がいるとよく自慢していた。
 間違いないと思いつつ、ただの患者として接してくれた生前のカールセン伯爵を思い出す。あんな風に接してくれたのは、専属治癒士でも彼だけだった。

 僕はまっすぐに見つめてくるアメジストの瞳を、信じてみたくなった。