フィル様の婚約者として三大公爵家からも認められた私に待っていたのは、ハードな妃教育だった。

 確かに王太子妃ともなれば、礼儀作法から周辺国の情報までありとあらゆる知識が必要になる。

 十八歳で学園を辞めてから淑女教育とは無縁の場所で過ごしてきた。
 伯爵令嬢と王太子妃では求められるレベルが違う。そのための教育に追われる毎日だ。

「あああ〜、疲れた……っ!」

 午前中の妃教育を終えて、ランチを摂るため本来の勤務先であるフィル様の執務室に戻るところだ。

 でも、こんな疲れた顔をフィル様に見せたくない。私よりもさらにハードな政務をこなしているのだ。

 そう思っていたけど、疲労が溜まっていると見抜かれたのか、食事を終えたところで思わぬ言葉をかけられた。

「本当にお疲れさま。毎日の妃教育を熱心に頑張ってるって、みんな言っていたよ」

 フィル様は腹黒なのに、どうしてこんなにも気配りができる人なのだろう。いや、腹黒だからこそ気配り上手なのか?
 ともかく私はこの優しい言葉で、思わずたまりにたまった愚痴をこぼしてしまった。