あれは、フィルレス様が孤児院でもらった菓子に毒を仕込まれて、俺が犯人を秘密裏に処理した日のことだった。
 フィルレス様の指示通り調査すると、あっけなく証拠が出てきた。その他にも不正を働いていたので、その証拠をすべて匿名の告発があったと王城の監査部へ提出したのだ。

 王太子の側近が持ってきた証拠なので、無碍に扱われることもない。後日結果を聞きにくると言えば、正しく調査される。実際に犯人の貴族は第二王子派の伯爵で、フィルレス様を暗殺した報奨として要職に就こうと考えていたようだ。

 処理が終わり、フィルレス様の執務室へ戻ると、やけに嬉しそうに笑う姿が目に入った。こんな様子は初めてかもしれない。
 報告を済ませたところで、フィルレス様が口を開いた。

『アイザック、これから忙しくなる』

 その言葉に反して、なにかとてつもなく楽しいことを考えているような表情だ。だけど背負っているオーラが、そこはかとなくドス黒い。

『なにかありましたか?』
『僕だけの女神を見つけた』
『はい?』

 女神を見つけたとは……つまり、フィルレス様が心許す方が見つかったということか?
 しかし、俺と別れた際は毒に侵されていて、一刻も早く私室の解毒薬を飲まなければならないはずだったのに。いったいどこで出会ったというのだろう?