「……待って、今は無理。ちょっと……嬉しすぎて、無理」

 そう呟くフィル様は、目元と耳を赤く染めて口を覆うように手を添え震えていた。
 眉を寄せてなにかに耐えているようなフィル様は、それはそれは極上の色香を放ち、ぐわしっと私のハートを掴んで握り潰す勢いだ。

 フ、フィル様が……照れてる!?
 なにこのかわいさっ!! 今まで散々私を振り回してきたのに、ここでこんなに照れるの!?
 いや待って、今こそお願いを聞いてくれるかもしれない!!

「フィル様……お願いですから、落ち着いてください。フィル様が大切にしてきた国のためにも、戦争なんてしてほしくないのです」
「ラティ……」

 ふわりと微笑むフィル様は、太陽の創世神の生まれ変わりかというほど神々しい。
 その甘い表情を一瞬で真顔へ変えて、皇太子に鋭い視線を向ける。

「いいか、ラティは僕の婚約者だ。手を出すなら帝国ごと消す」

 腰を抜かして尻をついたままの皇太子は、悔しそうに顔を歪めた。反論したくても、なにも言えないのだろう。フィル様の脅し文句がそれだけで終わらないのも、理解できたはずだ。

「くっ!」
「お兄様! ちょっと、黙ってないでなんとか言ってよ!」