いけない、そんなことで皇太子を傷つけたり殺したりしたら、それこそ帝国と全面戦争は免れない。

 この国のために尽くしてきたフィル様の努力が、無駄になってしまう。そんなのは絶対にダメだ。

「フィル様、お待ちください! 泣いたのはあれです、ちょっと感情が昂っただけで皇太子のせいではありません!」
「……ラティ。どちらにしても原因はあの男でしょう? それなら元凶から掃除しないとね?」

 そう言って、フィル様が振り返りざまに氷の剣を放ち、皇太子は短い悲鳴を上げた。

「ひっ!!!!」

 ガガガガッと大きな音を立てて、皇太子の衣服だけ縫い止めるように、氷の剣は地面に突き刺さっている。
 皇太子の股の部分が濡れていたけど、そっと視線を逸らした。

「ああ、ラティの顔を見たら嬉しくて、つい手加減してしまったな」

 なんとか殺傷は避けられたけど、怒りに我を忘れた様子のフィル様を、どうやって止めたらいいのかわからない。
 私に向けている瞳は仄暗く、今にも世界を滅ぼしてしまいそうだ。

「フィル様、お願いです。どうか怒りを鎮めてください」
「そうだ、面倒だからふたりまとめて片付けようか? あの女もずいぶんとラティを苦しめたしね?」
「きゃああああっ!!」