フィル様は静かに尋ねた。
 皇太子もエルビーナ様も、さっきまでわめいていたのが嘘みたいに、なにも話さない。

「ねえ、僕のラティになにをした?」

 その言葉に込められたフィル様の怒りが、幾つもの見えない刃となって皇太子に向けられている。

 皇太子がごくりと唾を飲み込む音さえ聞こえる。静寂に包まれた空間の支配者は、まぎれもなくフィル様だ。

「お前、僕のラティを泣かせたな?」

 ざわりと鳥肌が立つ。フィル様の怒りが漏れ出して、辺りの気温をぐんと下げた。フィル様の表情はわからないけど、私が泣いたことを怒っているようだ。

 一歩ずつ皇太子に近づきながら、手のひらのうえに鋭く尖った氷の剣が何本も浮かんでいく。

「もういいや、計画は変更だ。今すぐこのゴミを片付ける」

 待って、これはなんというか感極まって流れてしまったので、皇太子はある意味とばっちりではないか?
 いやでも原因を作ったのは皇太子だから自業自得になるのだろうか?