そこにいたのは、襟足を伸ばした艶々のピンクブロンドの髪と翡翠のような瞳の美丈夫だった。見たことのある配色に猛烈に嫌な予感がした。後ろでは公爵家の家令が可哀想なくらい青ざめている。

「今魔法を使っていたのは、お前か?」
「はい……確かに私が治癒魔法を使っていました」

 貴族ならある程度、使用した魔法の気配を感じ取れる。魔力の波動と呼ばれていて、フィル様がバハムートを見つけたのも、これの応用だ。このお方はそれを感じ取ったらしい。

「へえ、お前、月の女神の末裔か! 魔力量も十分あるようだし、オレはついてるな。これで皇族は安泰だ」
「な、なぜそれを……?」
「銀の髪に紫の瞳、それにこの治癒魔法だ。わからないわけがない。お前を皇太子であるオレの妃として連れ帰る。いいな?」

 目の前のお方はやはりというか、皇太子様だった。しかも月の女神の末裔がいることを知っていたようだ。この国の貴族は嘲笑するだけだったから、信じてくれてありがたいけど皇太子の妃というのは頷けない。

「申し訳ございませんが、私はこの国の王太子フィルレス様の婚約者です。一緒に帝国に行くことは叶いません」
「そんなもの、国王の命令ひとつでなんとでもなる。よし、このまま国王の元へ行くぞ。そしてすぐにお前との婚約を発表しよう」