* * *



 わたくしは帝国の第一皇女エルビーナとしてこの世に生を受けた。
 この美貌の前には誰も彼も(ひざまず)き、なんでも思い通りにしてきた。

 世界中の男たちはわたくしのために貢いで尽くして、すべてを差し出すはずなのに。

「なんなのこの国は……! 無礼者ばかりじゃない!!」

 突然目の前で始まった痴態を見せつけられて、完全に思考が停止した。
 わたくしが隣にいるのに、フィルレス様は専属治癒士の女を膝に乗せて「ラティにしか癒せない」などとのたまった。

 そもそもあんなに健康そうなのに、なにを癒すというの!? わたくしの美貌を眺めていれば、それこそ癒しになるじゃない!!
 それに問題はあの専属治癒士よっ!
 あの女が業務に差し支えると言って、わたくしをフィルレス様から遠ざけて……! ただの治癒士の分際で、おこがましいにも程があるわ!
 フィルレス様もすっかりゆるんだ顔をして、本当に腹が立つのよ!!

「こんなに侮辱されたのは、初めてだわ……!」

 もうこうなったら、お兄様にあの女を誘惑してもらえばいいのだわ。そうなればフィルレス様との結婚もなくなるわよね?
 その後でお兄様があの女を妾かなにかにしたいと、国王に要求すればいいのよ。いくら王太子だといっても、国王から命令させれば従うしかないわ。

わたくしがフィルレス様の婚約者にならないといけないのよ!

「このような扱いをしたこと、絶対に後悔させてやるから……!」

 わたくしは怒りに身を震わせながら、お兄様と密談したのだった。