フィル様との接点がどんどん奪われて、落ち着けるのは寝室だけになっていた。

「ラティ、嫌な思いをさせてごめん。今グレイとシアンが帝国の状況を探っているから、状況がわかり次第手を打つよ」
「私は大丈夫です。それよりフィル様こそ、政務が進まず大変なのではありませんか?」
「はあ……そうなんだ。いちいち話に入ってくるから時間がかかって仕方ない。陛下は皇太子が持ってきた外交の話で忙しいから、そちらに振ることもできなくてね」
「ふふ、前のように話なら聞きますよ? 私をお姉さんだと思って話してください」
「ははっ、じゃあ、今日はもう少し話に付き合ってもらおうかな」

 この時間だけは、私がフィル様の隣にいていいのだと思えた。私だけに話してくれるフィル様の愚痴は、初めて会った時のことを鮮明に思い出させる。

 公明正大で、人格者。漆黒の艶髪と射貫くような空色の瞳。弱音を吐き出せない孤高の王太子殿下。

 今は、計算高くて用意周到で、情報を網羅して、裏から手を回すのが得意な腹黒王太子で、真っ直ぐに私を見つめてくれて、私が本当に困った時には駆けつけてくれて、私の心に寄り添ってくれるひと。

 執務室のソファが私の定位置で、フィル様の隣が私の居場所だと思った。

 私は、フィル様が好きだ。
 フィル様だけは誰にも奪われたくない——そう思った。