「君がどんな状況だったのか知ってから、密かに調査を進めて手配していたんだ。これも王族の務めだから」
「あ……ありがとう、ございます!」

 ああ、そうか。フィル様は王太子として優秀だし、なにか目的があって私を婚約者にしたのだろう。危なく勘違いするところだった。
 胸がぎゅうっと締め付けられたようにつらくなって、なぜか目の奥に熱いものが込み上げてきた。瞬きして堪えていたのに、あっさりと決壊してあふれた涙が頬を伝っていく。

「本当は君の笑顔が見たかったんだ」

 フィル様の優しく囁く声に、ますます混乱する。
 まるで私のためにすべて手配したと言っているのに、フィル様の胸の内がわからない。私を求めてくれるのに、愛の言葉は決して口にしないから、信じきっていいのかわからなかった。

「だから、もう泣かないで」

 フィル様の長い指が私の涙を拭う。その指先が怖々とした様子で、でも優しくて、ますます切ない気持ちが込み上げた。

 こんなことを考えていても答えは出ない。フィル様に直接聞ければいいけど、やぶ蛇のような気もする。どちらにしてもルノルマン公爵様の判定結果次第では、婚約を解消しなければいけないから、あがいたところで無駄だろう。

 私は気持ちを切り替えて、話題を変えることにした。