私はこのモヤモヤした気持ちを、フェンリルのもふもふで癒してもらおうと銀色に輝く毛並みに顔を埋める。

《おい! ラティシア! 頼むから離してくれ!!》
「どうして? もふもふが気持ちいいのに……」
《これ以上もふられたら、主人(あるじ)に消されるっ!!》
「…………」

 無言で顔を上げると、ドス黒いオーラを背負ったフィル様が目に入った。
 目が合うと途端に甘い微笑みを向けられて、私が直視できなくて視線を外してしまう。

 この前のお茶会から、フィル様との距離の取り方がわからない。私のためにいろいろしてくれるのが、嬉しいけれど困惑している。
 私にはそんなことをしてもらう価値などないのだ。

「あ、そうだ。言い忘れてたけど、カールセン伯爵家の現当主はラティだから」
「……はい?」

 フィル様の口から出た言葉が、素直に呑み込めない。私がカールセン伯爵家の当主と聞こえたようだけど。

「当然でしょう? 本来はラティが正式な後継者なのだから。ただラティは僕の専属治癒士だし、領地の経営は信頼できる人物に管理させているから安心して」
「え? まさか、本当に……?」