婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。


「こんな書類にサインした覚えはない! それに、私はシアンが研究者だと聞いていた! これほど事実と齟齬(そご)があるなら、この書類は無効だ!!」
「いえ、こちら別紙に詳細を記しているとありまして、この別紙の上から十二行目に私が代理人だと記載しております」
「嘘だ……!! そんな書類は見たことがないぞ!!」
「あの時、確かにカールセン伯爵様に書類をお渡ししましたが、本当にすべてご覧になりましたか?」
「…………っ!!」

 シアンの問いかけに、マクシスの顔色が青から白に変わっていく。シアンから聞いた話では、当日のマクシスは浮かれていて、書類にはさらっと目を通しただけだったと聞いていた。
 ラティを嵌めたように書類に細工もしていたが、必要なかったと思ったくらいだ。

 ああそうだ、もうひとつ話しておかなければいけないことがある。

「それからビオレッタ。グレイは役目を果たしたから、もう引き上げさせるよ」
「えっ……!?!?」

 僕の言葉でビオレッタの影から現れた傾国の美青年グレイは、恭しくお辞儀をしてビオレッタには目もくれず僕のもとへ戻ってきた。