婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。


 その二日後は、王都の外れにある孤児院への訪問だった。

「ラティ、僕がそばにいなくても、他の男にうつつを抜かしてはダメだよ?」
「そそそ、そんなことしません、絶対!!」

 フィル様に抱擁され、もしかして毎回そうなのかと卒倒しそうになった。
 息も絶え絶えに王城を後にして、束の間ひとりの時間を味わう。考えてみればフィル様の専属治癒士になってから、ずっと誰かと一緒で、あまり自由になる時間がなかった。

 今だって判定試験の最中ではあるけれど、バハムートやフェンリルの加護がついているからと、護衛なしで出かけている。
 前回と同じように問題点はフィル様に伝えて、レポートには適当なことを書こう。

 そんなことを考えながらやってきた孤児院は、教会と住居が一緒になった様式のかなり古い建物だ。孤児院なら子供たちの元気な声が聞こえてきそうなものなのに、ずいぶん静かだと思う。

「こんにちは! ラティシア・カールセンと申します! ルノルマン公爵様の使いでやってまいりました!」

 入り口でノックして声をかけると、静かに扉が開かれ十歳くらいの男の子が姿を見せた。