その翌日、計画書では街の視察へ向かうことになっている。
 朝の健康観察も終えて、フィル様に声をかけた。

「それでは、フィル様。判定試験のため街の視察へ行ってまいります」
「あ、ラティ、ちょっと待って」

 フィル様の執務室を出ようとしたところで引き止められる。フィル様は書類が積まれた机から立ち上がり、私の目の前までやってきた。腕を伸ばしてきたと思ったら、抱きしめられていた。

 突然のことで石のように固まって動けなくなる。
 意外とたくましい胸にギュッと耳が押し当てられて、フィル様の鼓動が直で聞こえてきた。その音はいつもより確実に速く刻まれて、私を包む石鹸の香りとフィル様の体温に頭が真っ白になる。

「……っ!?」
「本当は一分たりとも離れたくないけれど、判定試験だから我慢するよ」

 耳元で囁かれるフィル様の切そうな声に、ギュッと心臓が掴まれたような感覚に襲われる。
 心臓の異変なんて、心拍の異常か、血の巡りが悪くなるか、本格的にマズいのは痙攣だけど、そんなことしか知らない。こんな風におかしな反応をする病がなかったか、必死に考えていた。

「どうか気を付けて。僕のラティ」

 抱きしめられている腕の力が緩んだので、勢いよくフィル様を押しのけて「いいいい、いってきます!!」と執務室から走り去る。
 私の心臓はおかしくなったと思うほど、バクバクと大きく鼓動していた。