バランスを崩したバハムートから振り落とされ、私は真っ逆さまに落下していく。バハムートも必死に羽ばたいて私を追いかけるけど、穴の空いた翼ではうまく飛べないようだった。


 もうここまでか、そう思った時だ。


 ふわりと優しい風が私を包み込んで、石鹸の爽やかな香りが鼻先をくすぐる。
 もう慣れしたんだ温もりは私を抱きしめて、空よりも澄んだ青い瞳が目の前にあった。

「まったく、ラティからは目を離せないね」
「フィル様っ!?」

 風魔法を絶妙に操って、ふわりと地面に着地する。

「ラティになにかあったら世界を滅ぼすところだった」
「えっ、えっ、どうして?」
「ふふ、ラティに会いたかったから、頑張って政務を終わらせてきたんだ」
「ええ!?」
「それよりも——」

 チラリと周囲を見渡し、固まって動かないゴーレムで視線を止めた。
 フィル様の感情のない横顔に、背筋が凍る。初めて見るフィル様だった。これはきっと、とてつもなく怒ってる。

「僕のラティに危害を加える敵は、排除しないとね?」

 そう言って、放った魔法はバハムートの比ではないほど、強烈な一撃だった。