「はあ……小娘が随分と生意気を言うものだな」
「生意気で申し訳ございません、ですが黙っていられませんでした」
「……ラティシア・カールセン。私の曇った(まなこ)を覚ましてくれて、感謝する。私は妻に託され、娘のためだと考えていたのに、本人の気持ちをまったく考えていなかった」

 アリステル公爵様の意外な言葉に驚いた。イライザ様に視線を向けたアリステル公爵様の横顔は、父親としての愛がにじみ出ていた。

「イライザ、ジルベルトとの結婚を許そう。その代わり、私の目の届くところにいておくれ」

 アリステル公爵様の言葉に、イライザ様は瞠目している。ジルベルト様も、優しく微笑んでイライザ様の手を握った。

「よろしい、のですか? わたくしは、ジルを夫にしてよろしいのですか!?」
「ああ、公爵令嬢の前に、お前は私のかわいい娘だからな」
「ああ……! お父様、ありがとうございます!!」

 今度は両手で顔を覆って泣きはじめてしまった。涙脆いイライザ様は、もともと心根の優しい方なのだろう。ジルベルト様がそっと背中をさすっている。

「だから、もう悪女のふりはやめなさい」
「あら、バレてましたのね」
「ジルベルトから報告されていた。まあ、これだけイライザをうまくコントロールできる男もおらんからな」

 パタリと泣き止んだイライザ様がつまらなそうに呟く。しかも犯人はジルベルト様らしい。どこでバラしたのか、ちょっとだけ気になる。

「ジル!?」
「イライザ、本当にごめん。でも俺はイライザに幸せになってほしいから」
「もう……仕方ありませんわね」

 そう言って、ふたりは本当に幸せそうに微笑んだ。