アリステル公爵様は、八年前に奥様を亡くされて深い悲しみに暮れていた。愛する奥様を亡くした経験があるなら、イライザ様の気持ちだって理解できるはずだ。
 それにイライザ様にはかなり年上の兄がいて、すでに結婚して幼い子供もいる。だから後継者にも困らないし、なにも問題はないと思われた。

「なによりも、今目の前でイライザ様がどれだけ悲しまれていたか、まだわからないのですか?」
「……私は当主として当然の判断をしている」

 アリステル公爵様は苦虫を噛みつぶしたように、顔をしかめた。

「ですが愛する人を奪われるのが、どれほどの悲しみと絶望を与えるのか、奥様を亡くされたアリステル公爵様ならご存じですよね? イライザ様は確かに公爵家のご令嬢ですが、アリステル公爵様の娘ではないのですか?」

 だって、さっきバハムートに襲われた時、真っ先にイライザ様を庇っていた。その後もイライザ様に被害が及ばないように、ジルベルト様に指示を出していたのだ。裏目に出てしまったけれど、父としての愛情は感じられた。
 アリステル公爵様はイライザ様をちゃんと愛しているのだ。

「…………」
「ここにいらっしゃるのは、貴方が愛してきた娘ではないのですか!?」

 しばし沈黙が流れる。
 これ以上、私から言えることはない。これでイライザ様とジルベルト様の結婚を認めてもらえなかったら、もう打つ手がない。