「蒼永……?」

「っ、俺も…たまには髪切ってほしい…」

「……!」


自分でもなんでそんなこと言い出したのか、わからない。


「いいのか…?」

「美容院って苦手だから…やたらと話しかけられるし…」


父さんは、少し目を見開いた。少しだけ赤くなっている目は、確かに俺を見つめていた。


「……わかった。静かに切ろう」
「うん……」


多分、今の俺たちにはこれが精一杯だと思う。
でも、初めて父さんと目を見て話せた気がする。


「それいいですね!蒼永、一緒に行く?」
「…そうだね」


無邪気に笑いかける咲玖の頭をぽんぽんと撫でた。
やっぱり、いつも俺を突き動かすのは咲玖なんだな。

ずっと平気なフリをしていたけど、心の奥では寂しかったんだろう。
申し訳なさそうに罪悪感を抱かれているのが、本当は寂しかった。
本当は嫌われているのかもしれないと、そう思っていた節もある。

でも、多分俺も父さんも不器用なだけ。
お互い上手く言葉にできないだけなんだろうと思った。


「…ありがとう、咲玖」
「ん?何が?」
「ううん、なんでもない」


咲玖はやっぱり無自覚だ。
そんな無自覚さに肝を冷やすこともあるけど、救われることもある。

無自覚でかわいい、俺だけの許嫁。